
2025年10月24日
太陽暦10月は、太陰暦のビルマ暦7月ダディンヂュッ(持戒明け・雨安居明け)月にほぼあたる。同月の満月日、ビルマ仏教徒は燈明祭を祝う。天界で母に論蔵を講じ終えた釈尊が人間界に降臨し、その足元を照らすために多くの燈明がともされたからだという。
雨季の間出家は僧院にこもり、在家も慶事を慎むが、ようやく結婚式も新築も解禁になる。家庭や各界では年長者への跪拝式が催される。折しも作家Sがフェイスブックで、敬愛する長老作家100名余の細密画をアップした。なんとわたしまで入っている。彼がもとにした写真は、アウンサンスーチーが訪れたことで有名なマンダレーの喫茶店で2020年2月に撮ったものだ。彼女の訪問時の写真が多数飾られた壁を背に、彼女が座った席にわたしも座った。Sの細密画は、壁の写真だけぼかしを入れていた。さすがだと言うべきか。
各月の満月日は何らかの仏教行事があるが、近年そこに空爆が加わった。ビルマ仏教徒を自認する「国軍」総司令官が、満月日にも殺生戒を破るとは、因果応報を怖れぬ悪業だと、市民は呆れている。10月6日の満月の夜、ザガイン地域チャウンウー郡の村で、燈明を持つ人々の上に爆弾が降り注いだ。8日に確認された死者は24名、負傷者は30名。「国軍」が医薬品搬入の道も閉ざしたので、その後も死者が増加したと聞く。
空爆は各地に及ぶが、最近目立つのは、シャン州北部のモウメイ、ナンサン、マイントン、マインゴ、マンダレー地域のモウゴウ(モゴック)など、パラウン族のTNLA(タアン民族解放軍)支配地域だ。20日のTNLA発表では、支配地域への空爆は10月だけで30回。子供、僧侶を含む40名が死亡している。去る2023年10月の1027作戦(本便り23年11月20日、同12月25日参照)で、TNLAは「三兄弟同盟」を名乗って、コウカン族のMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、ラカイン族のAA(アラカン軍)とともに決起した。24年6月の1027作戦第二弾(同24年7月31日)で、TNLAは上記の町々を制圧した。25年1月にMNDAAは中国の圧力で「国軍」と停戦し(同25年1月31日)、革命勢力支配都市も94から91に減少しているが、TNLAとAAは屈していない。
このうちモウゴウは、マンダレー市の北北東140キロ。世界有数のルビーの産地だ。人口7万余で、ビルマ族のみならず、リスー族、シャン族、グルカ族、パラウン族などが住む。友人Nはバゴウ地域出身のビルマ族だ。マンダレー大学在学中に、シャン族男性と恋に落ちた。モウゴウに嫁ぎ、小さなルビー採掘場を家族で営む。文学愛好家にして豪胆。ここでは書けないが、わたしも大変助けられた。彼女のフェイスブックには、6日夜に家族で打ち上げ提灯を飛ばす姿が、9日は食事中の空爆で、食べ物を口に詰め込み防空壕に飛び込んで口をもぐもぐさせる姪っ子の顔が流れた。21日は、「うちのすぐそばに落ちました。もう来ないと思い、義父母宅に向かう途中、もう一機現れたので、傍のお宅の防空壕に駆け込みました。今度ばかりは、ひざがガクガク震えています」という投稿だった。この日は、フットサル・コートへの空爆で、子供3名が死亡、4名が負傷したと後に知った。
さて「総選挙」投票日は12月28日。空爆と強制徴兵による兵力増員は突破口となるのか。死者数は10月8日「国軍」162名、革命軍5名、14日「国軍」85名、革命軍0名。戦場近くの病院は負傷兵で溢れる。新兵は使い捨ての盾同然だ。戦闘の前列に並ばされ、逃げれば射殺だ。薬物投与もなされ、心を壊す者も少なくない。5日、首都のUSDP(連邦団結発展党)議長が選挙人名簿の大量の記載ミスを指摘して、拘束された。10日、選挙人名簿確認要請が各党に出され、11日にカチン州の候補者が自分の名の未記載を報告した。19日に総司令官は、選挙の完全実施は不可能なので、新政権発足後補欠選挙を実施すると述べた。
南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻修了。大阪大学名誉教授。ビルマ文学研究者・翻訳者。