『日本の科学者』2020年8月号

『日本の科学者』2020年8月号

在庫あり

日本の科学者

著者

日本科学者会議編

出版年月日

2020年8月1日

ISBN

978-4-7807-1362-6 C0336

判型・ページ数

B5判64ページ

定価

727

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書籍説明

足尾銅山鉱毒事件を捉えなおす 2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島原発事故について,田中正造研究の第一人者小松裕は,『震災・各災害の時代と歴史学』(歴史学研究会編,青木書店)に「足尾銅山鉱毒事件の歴史的意義──足尾・水俣・福島をつないで考える」を書き,足尾銅山鉱毒事件(以下鉱毒事件)とチッソ水俣病事件(以下水俣病事件)の共通点を8つ挙げ,それが東京電力福島原発事故(以下原発事故)とそっくりな構図だと述べた.水俣病事件に早くから関わっていた宇井純も,鉱毒事件と水俣病事件との類似性を意識しており,石牟礼道子を足尾や谷中村跡に案内し,田中正造から闘い方を学ぶように助言していた.鉱毒事件と原発事故の類似性に気づいていた人物に,1970年から原発建設に反対を表明していた京都大学原子炉実験所(現在の複合原子力科学研究所)の小出裕章がいる.彼は研究室に田中正造の写真を置き,原発反対運動を続けていたという.本特集に寄稿した渡良瀬川研究会会長菅井益郎も,故郷の柏崎刈羽原発の反対運動に早くから関わっており,渡良瀬川研究会でも,鉱毒事件と福島原発事故の関連性について活発に発言している. 田中正造については,赤上剛が,偉人・義人,天皇に直訴した人というステレオタイプ化した理解の危険性について,繰り返し指摘してきた.彼の『田中正造とその周辺』(随想舎)を読めば,正造の言葉や行動を理解するには,当時の状況を文書や報道を通じて客観的に分析していかねばならないことが分かる.本特集でも彼の研究手法によって得られた新しい正造像が提出されている. 赤上は,鉱毒事件があたかも田中正造の死で終わったかのごとく描かれることをも強く批判してきた.実際,谷中村の残留民は正造死後4年間残留を続け,買収に関しても不当買収裁判を続けた.買収に応じ移住した人々も,谷中村跡で淡水漁業を続けていたが,第2次大戦中足尾での銅精錬が増大し,鉱毒被害によって漁業ができなくなったのである. 戦後になっても鉱毒被害は続いた.1958年5月足尾の源五郎沢鉱滓堆積場が崩壊し,下流の桐生市,太田市,足利市,館林市に鉱毒被害をもたらした.特に明治期にも大きな被害を受けた毛里田村(のちの太田市毛里田地区)は,中央公害審査委員会に調停を申し立て,長いやり取りの末に古河鉱業(前足尾銅山運営会社)から賠償金を得て,汚染農地の復元工事を実施することができた.毛里田地区の渡良瀬川鉱害根絶期成同盟会は今も,足尾の鉱滓堆積場などを毎年調査し,古河機械金属に意見を申し立てている. 1970年代の公害反対運動は,栃木県宇都宮市の若者も動かした.彼らは谷中村跡の現状を調べるためにフィールドワークを行い,映画に記録した.その映画『鉱毒悲歌』はやがてDVDとなり,さらに現代の問題をも扱うDVD『鉱毒悲歌,そして今』が作成され,現代の人々に鉱毒事件と谷中村事件の意義を伝えようとしている. 本特集は,こうした足尾銅山鉱毒事件の知られざる側面を明らかにすべく企画されたものである.

目次

足尾銅山鉱毒事件を捉えなおす
まえがき 高際澄雄 02言葉の玉手箱 高際澄雄
足尾銅山鉱毒問題の現状と東京電力福島原発事件 ──「デンキ開ケテ世見暗夜となれり」田中正造100年後の警鐘 菅井益郎
今も古河と対峙し追及──渡良瀬川鉱毒根絶太田期成同盟会の闘争 板橋 明,坂原辰男
鉱毒悲歌の制作,そして今 谷 博之,高際澄雄
谷中村民の苦しみ──利根川の東遷とヨシ刈り事件 高際澄雄
当たり前と信じたことやり続けた人 田中正造 赤上 剛
〈談話室〉
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大阪府チャレンジテストにおける「団体戦方式」の問題─地域間の経済格差が内申点評定に反映される仕組み 濱元伸彦
〈資料〉大阪府2020年度中学生チャレンジテスト(1・2年生)の実施要項(抜粋) 〈本〉小河孝 著『満州における軍馬の鼻疽と関東軍 奉天獣疫研究所・馬疫研究処・100部隊』 牧村 進 NHK取材班 著『AI vs. 民主主義 高度化する世論操作の深層』 小倉久和 〈読者の声〉 〈科学者つうしん〉 〈編集後記〉 中嶋俊一