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ビルマ文学の風景

軍事政権下をゆく

南田 みどり

著者によれば、「ビルマ」と「ミャンマー」はともにビルマ語に起源を持ち、ビルマ族(バマー族=ミャンマー族)をさす同義語だという。実際、1948年の独立時、国名の英語表記としてB urma(発音は「バーマ」)が用いられ、ビルマ語では「バマー」と「ミャンマー」が併用されていた。だが1989年、権力を掌握した国軍は国名を「ミャンマー」に統一することを宣言、いまにいたる。ただ、この統一宣言はあまりにも強引で、越権の要素を孕むだけでなく、矛盾を生じさせていると著者はいう。「本書では、このような根拠に乏しい呼称の使用を避け、従来どおりビルマ語による記述文学をビルマ文学と称する」(本書第一章)。
本書は、長くビルマ文学の研究に携わった著者がビルマ(ミャンマー)の戦後文学史を総括する初めての試みである。抗日時代からはじまって、ロヒンギャ問題がクローズアップされた2020年代に及ぶ。著者のビルマの作家たちを見つめる目はあくまで温かく、さまざまに交流を重ねる場面は感動的である。そのときどきのビルマの状況を体感する著者だからこそ、初めて可能な生きた現代史であるといえよう。
本書追記にもあるように、2021年2月1日、ふたたび国軍によるクーデターが勃発した。この追記では、フェイスブックに投稿された抗議デモ参加者の一文が紹介されている。「恐ろしくないかって? 恐ろしいです。人間ですもの。でも私たちの未来を築く子供たちの教育や生活水準や権利が劣化するほうが怖い。だから参加します」。こうした民衆の声を受けて、著者はこう結ぶ、「このような時期に本書が出版されるのは運命というほかない。本書を市民的不服従へのオマージュとしたい。クーデターなんかに負けられない!」。

まえがき

• 軍事政権下への文学的道程
「ビルマ文学」の周辺/軍事政権下のビルマ文学 そのルーツをたどって/日本占領期 その文学的遺産/被抑圧階級解放をめざして/戦後文学から50年代文学へ/虚構による史実再編とそのゆくえ/冬の時代の抵抗文学

• 軍事政権下をゆく 1 渦動
強権政治と開放経済と貧困と 1993/アウンサンスーチー「解放」の波紋 1995/女たちをたずねて 1996/ヤンゴン撮影不許可場面 1996/どこにも書けない! 1997/文学以前の文学事情 1999/文学賞授与式周辺 1999

• 軍事政権下をゆく 2 稽留
作家と作品舞台をたずねて 2000/「戦時の旅人」を追って 2001/「戦時の旅人」ふたたび 2002/ヤンゴン大学周辺 2002/過去と現在のはざま 2003

• 軍事政権下をゆく 3 臨界域
混迷の風景 2004/虚構をしのぐ現実のなかで 2005/時の流れのはざま 2006/9月事件のあとさき 2007

• 「民政移管」のあとさき
もの書く人々とサイクロンのあとさき 2008/「変化」の兆しを求めて 2009-2011/検閲廃止のあとさき 2012-2015/彼らはなぜロヒンギャを語らない 2016-2020/おわりにかえて『ビルマの竪琴』またもや

あとがき
ビルマ人名索引


南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻終了。大阪大学名誉教授。同外国語学部非常勤講師としてビルマ文学講義も担当中。

判型・頁数 四六判・344頁
定価 3300円(税込)
ISBN 978-4-7807-1987-1
出版年月日 2021年3月10日

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